社会に貢献する素晴らしい人間作りに協力します。|池上公介の教育論|2003年度札幌タイムス掲載(全記事掲載中)

【第3回】
本当の原因は、子どものストレス耐性の低下。急増する不登校

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急増する不登校、学力不振、中退が大きな社会問題となっている。特に不登校、ひきこもりは高校生だけでなく、中・小学生にも急増している。道内公立中学校における不登校生徒数は3588人で、全体の約2.05%(平成13年度道教委調べ)。つまり、中学の1クラスに1名の不登校がいるのである。もはや不登校は一般的な問題となっているのだ。

さまざまな書籍や識者の意見では「不登校の原因は多種あり、一概になにが原因とは言いきれない部分がある。いじめを受けた、先生が嫌いになった、集団生活になじめない、友人とけんかした、学校で恥をかいてしまった、勉強が分からない、といったものが考えられる。いくつかの原因が複雑に絡み合っている場合が多い」としている。

しかし、私に言わせれば、いじめは昔からあった。嫌な先生もいた。勉強が分からない生徒もいた。友人とけんかなんてものは、大昔からあったに決まっている。これらは不登校の「きっかけ」に過ぎず、不登校の「原因」ではない。私は「昔に比べて最近の子どものストレス耐性が低下していることが、不登校の本当の原因です」と答えることにしている。

昔の家庭では父母のほかに、おじいちゃんやおばあちゃんが一緒に住んでいたし、家で商売をやっていることが多かったから、お客さんや業者の人、取引先が家に出入りしていた。それに、子どもの数も多かった。家の中では兄弟にもまれ、外に遊びに出ればガキ大将にもまれていた。子どもは小さい頃からいろんな人と接触し、社会性を養っていた。当然、いろんな人と接触するから、けんかもあるし、叱られもする。言い合いもある。仲直りもする。そうやって、徐々に「人と人とのぶつかり合いのストレス」に慣れていった。「ストレス耐性」を鍛えていったのだ。

ところが、今の子どもはほとんどが一人っ子。3人も兄弟がいれば珍しいくらいだ。おまけに核家族で祖父母とは別に住んでいる。サラリーマンのお父さんは仕事で朝早く出て、夜遅くに帰ってくるから、ほとんど子どもと顔を合わせない。休日出勤も珍しくない。たまの日曜日も子どもと遊んだり、話したりする気力もない。商売をしているのとは違って、サラリーマン家庭に出入りする外部の人などまずいない。子どもとコミュニケーションをとる相手はお母さんだけだ。これでは社会性を身につけるどころか、対人的なストレス耐性を身につけるのはまず無理だ。

子どもの不登校を予防したければ、若いお父さんやお母さんは一日も早くおじいちゃん、おばあちゃんと一緒に住みなさい。そうすれば、子どものストレス耐性は鍛えられる。そして、できることなら、お父さんはなるべく早く仕事から帰ってきて、子どもとたくさん遊ぶことだ。

私の塾では「池上学院オープンスクール」という部門を設立している。一般には「フリースクール」と呼ばれている「不登校の生徒を受け入れる場」である。

フリースクールも多種多様である。不登校の生徒を受け入れて、勉強などはせずに歌ったり、踊ったり、工作をしたり。自然や動物と接することを中心にしたり、学校の勉強を一切しないフリースクールもある。完全に学校教育を否定し、独自の路線を進んでいるフリースクールもある。学校の勉強をするフリースクールは極端に少ない。

しかし「池上学院オープンスクール」では、学校と同様の勉強をし、最終的には学校に戻ることを目標にしている。むろん、戻る時期は人それぞれ。すぐ復帰する子もいれば、かなりの時間を要する子もいる。高校への進学をきっかけに、学校に復帰する生徒もかなりの割合でいる。

復帰した生徒はその後、楽しく学校生活を過ごしている。なぜかと言うと、「池上学院オープンスクール」では、その子に応じて少しずつ対人的なストレスに慣らし、社会性を徐々に身につけているからだ。最初は先生が生徒を個別に指導し、慣れてくると少人数のクラスに入れるようにしている。1クラスが3〜5名の少人数だと教師の目が行き届き、声もかけられるし、ゆっくり話もできる。1クラスが大人数だと、こうは上手にいかない。必ず目の行き届かない部分が出て、トラブルが起こる。

不登校の子どもたちは対人ストレスのない「無菌状態」のような環境にいて、ストレス耐性が低いのだ。いっぺんに大人数のクラスに放り込むと、また不登校になってしまう。少人数のクラスで少しずつ慣らしていくことが大切なのだ。

不登校になった生徒の心の傷が癒され、対人的なストレス耐性が身についたとしても、その間、学校に行ってなかったため、学力が低下しており、学校に戻っても授業についていけないことがほとんどだ。しかし、「池上学院オープンスクール」では学校と同様の勉強をしているから、学校にスムーズに復帰することができる。しかも、集団講義形式の授業はしていない。不登校の生徒は人前で発表することが強烈なストレスになっているから、先生に当てられて質問に答えることが脅威になっている。だから、私は個別指導の形式をとっている。個別指導ならば人前で発表することもないので、子どもたちはストレスを感じることなく勉強することができるのだ。

ほとんどの人が知らないことなのだが、原則として「池上学院オープンスクール」に登校した日数は、札幌市内の各中学校の登校日数としてカウントしてもらうことができる。札幌市の桂前市長をはじめとした市教育委員会の英断のおかげである。札幌市は全国に先駆けて「池上学院オープンスクール」のような教育施設に通えば、その日数を学校の出席日数にカウントする先進的なシステムを平成11年ごろから導入している。

現場の校長先生の理解にも助けられている。どの校長先生も皆快く我々の生徒の申し出を受け入れてくれている。今全国の教育現場は先進的な札幌に目を向けている。桂前市長、札幌市教委、各中学校の校長先生に深くお礼を申し上げたい。おかげで生徒たちは不登校になっても、青春の貴重な時間を無駄に過ごすことがないのだ。

ある不登校の生徒さんは印象深いものがあった。プライバシーがあるので、少々話を変えて紹介したい。

その女の子は小学校からいじめを受けていた。小学校の途中からいじめにあい、不登校になってしまった。中学校にはなんとか入ったものの、やはり不登校になってしまった。中学2年のある日、娘さんと親が相談に来た。いじめの状況、不登校になってからの生活を少しずつ聞いた。外出もほとんどしなくなったことや、ストレスのせいで自分の髪の毛を引き抜くようになったこと。私は最後に「将来何かしたい夢はあるの。良かったら教えて」と娘さんに聞いた。

娘さんはしばらく黙って考えているようだった。そして、小さな声で「動物のお医者さん。…池上先生、…一生懸命勉強したら…なれますか」「うん、一生懸命勉強したら、動物のお医者さんにきっとなれるよ」「でも、勉強あんまり分かんないし…」「大丈夫。分からないところから先生が教えてあげる。あなたと同じように途中から学校行かなくなって、勉強が分からない人が先生のところに来てるんだよ。自分なりの進め方でいいんだよ。だから、怖いことも難しいこともないよ」「それじゃあ…行きます」。
 彼女の学力を調べると、小学途中までしかない。中学2年生だったが、小学校の勉強からしなおした。勉強が少しずつ進みだすと、彼女は目をキラキラさせて通うようになった。そして、見事公立高校に合格し、見違えるように通学を始めた。

むろん、歌ったり、踊ったりするフリースクールが向いている子どももいれば、自然と接することを中心としたフリースクールに適した子もいるだろう。そして、私のところのように学校と同様の勉強をし、最終的には学校に復帰することを目的としたフリースクールが適する子もいるだろう。要はその子の状況に合わせてフリースクールを選ぶことだ。合わないフリースクールを選んで、かえって悪化してしまったケースもある。

不登校は今後も増えるはずだ。もちろん、不登校にならないように予防策を講じることが重要だが、もしも子どもが不登校になった場合、受け入れ機関の知識を身につけていくことも、親と祖父母には必要だと思う。

私の家は昔ながらの商家で、父母と祖父母、2人の姉のほか住み込みの従業員がいた。幼い頃から30名くらいの人に囲まれていたことになる。朝ご飯も10名以上で囲んで食べていた。出入りの業者や取引先の人が毎日来る。母は当時の人には珍しく英語ができたので、外国人の客も多かった。これは私が英語の道に入っていくきっかけでもあった。祖父はかなりの豪傑で人を大勢家に招いて宴会をするのが好きだったので、夜中までいろんな人が出入りしていた。

今から五、六十年前の話だが、このような経験が私の血となり肉となっているはずだ。

小さい頃から英才教育だ、知育だと奔走している教育ママさんや教育パパさんはいまだに多いが、そんなことをするよりも、いろんなところに子どもを遊びに連れて行ってほしい。いろんな人を家に招待して、子どもに外部と接触する機会を増やしてほしい。家に人を呼ぶと準備や片付けが面倒だと言う人もいるが、下手な英才教育より子どものためにははるかに良いのだ。

知識などは後からいくらでも身につけることができる。現に60歳を越えた私が今、デンマーク語の勉強を始めている。子どもの知識はいくらでも身につけることができる。しかし、「三つ子の魂百まで」と言う通り、幼い頃に社会性やストレス耐性を身につけなかった子どもは苦労する。まるで温室で育った花のように繊細で弱いのだ。本当に大切な社会性とストレス耐性を、幼児期から育むように育ててほしい。そのためには、小さい頃からなるべく多くの人と会うことだ。

【札幌タイムス 2003年5月8日(木) (7日発行) から、許可を得て転載】

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