社会に貢献する素晴らしい人間作りに協力します。|池上公介の教育論|2003年度札幌タイムス掲載(全記事掲載中)

【第8回】
犬も人間の子どもも、甘やかせては駄目。アルファシンドローム

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「アルファシンドローム」なる言葉をご存知だろうか。犬が飼い主よりも自分のことを上の位だと勘違いすること。「権勢症候群」「アルファ症候群」などとも呼ばれている。「アルファ」とは「リーダー」を意味する。私もつい最近、犬の訓練士さんから教えてもらった言葉だ。

<犬の写真01>

犬は本来、群れで行動する動物で、犬の群れには必ず「序列」がある。「自分は横にいる白い犬より強いし、序列が上だ。でも、自分は前にいる黒い犬よりは弱いし、序列が下だ」というように、犬は頭の中に序列を描いて行動する。そして、犬は自分よりも序列が上だと判断した者の言うことしかきかない。序列が一番上の犬(つまり一番強い犬)は、先頭に立って群れを率いる。

どうやって犬の序列が決まるかというと、最初は「威嚇(いかく)のうなり声」で決まる。次は「じゃれあい」で決まる。威嚇のうなり声がより強そうな方が、序列が上になる。そして、犬はよくじゃれあいをする。じゃれあいは人間でいえば「お相撲ごっこ」だったり「闘いごっこ」に相当するものだ。じゃれあいで力が強く、上に乗っかった方が勝ちで、序列が上になるのだ。

家庭で飼われている犬の場合は、飼い主やその家族が群れにあたる。ところが、犬を甘やかし過ぎたり、きちんと躾(しつけ)をしないと、犬は自分がその群れ(飼い主の家庭)のアルファ(リーダー)だと勘違いして、傍若無人な振る舞いをするようになる。飼い主や誰に対してもやたらと吠えたり、時には飼い主を噛んで血だらけにしたり、飼い主の言うことを聞かなくなる。

これが「アルファシンドローム」である。

この現象は犬に限ったことではないと私は感じる。人間の子どもにも「アルファシンドローム」がまん延しているのではないだろうか。「犬と人間を一緒に論じるなんて」と不快に思う人もいるが、最新の社会学も最新の心理学も、動物社会の観察から構成されている。教育学も同様に、動物社会の観察から得るものは大きいはずだ。

最近の子どもたちは甘やかされて、親よりも先生よりも自分の方が偉いと勘違いしている者が少なくない。先生を呼び捨てにすることや、敬語を使わないで乱暴な言葉で話すなどは「アルファシンドローム」と言っても過言ではないだろう。ひどい場合は注意をした先生に逆ギレして、胸倉をつかんだり、殴りかかったりするのは完全なる「アルファシンドローム」だ。親に対しても同様のひどい言動をする子どもはもっと多いだろう。

小さい頃から親に甘やかされ、わがままを全部きいてくれるので、親よりも自分の方が序列が上と勘違いをしているのだ。先生も最近は優しい先生が多い。体罰を禁止されているうえ、厳しく叱り過ぎると問題になるケースも多いので、必然的に先生は優しくならざるをえないのだろう。家でも学校でも優しくされ、甘やかされ、わがままをきいてもらえれば、子どもは自分が大人より上だと勘違いするのは無理もないことだ。

本当の優しさとは、正しいことを踏まえた厳しさが根底にしっかりと流れていなくてはいけない。

<犬の写真02>

犬の「アルファシンドローム」の場合、対策としては、誰が主人なのかの力関係を犬に分からせることにある。一番簡単なのは腕力だ。犬と相撲をとって、犬をねじ伏せて、犬の上に乗っかり、勝ちのポーズをとることだ。上に乗っかられると犬は降参し、飼い主を序列の上とみなすようになる。犬同士はこの相撲のようなじゃれあいを、しょっちゅうやって遊んでいる。遊んでいる中で序列を確認しているのだ。

人間の子どもの場合も、同様の対策が効果を発揮する。つまり、親が子どもを力でねじ伏せるということだ。しかし、子どもの体が大きくなって力も強くなってからでは、成功するのは難しい。

もう一つ犬の「アルファシンドローム」の治療法としては「無視」というのがある。飼い主の言うことをきかない犬に対しては、遊んであげない、かまってあげない、おやつをあげない、ごはんをあげない、という方法だ。これは飼い主の意識があれば、簡単にできる。失敗するのは、犬の鳴き声についつい同情して結局遊んでしまったり、かまってしまったり、おやつをあげたり、ごはんをあげたりするからだ。飼い主が甘いのだ。犬が鳴こうと騒ごうと、このような無視を続けていれば、飼い主が生殺与奪権を握っていることを理解させることができる。一食抜いても犬は病気になったりはしない。逆に一食抜けば犬はちゃんと自分がやったことは悪いことだと理解する。

無視するとは、飼い主が教育のため一生懸命耐えることでもある。甘やかしたい気持ちを必死になって耐えること。治す方にある種の強い覚悟が必要なのだ。

これは人間の子どもにも十分応用することができる。わがままな子どもにおこづかいを与えない、おやつを与えない、食事を一食与えない、ほしがる玩具を買ってあげない、といったように子どもの要求を無視するのだ。これは非常に有効である。どんな子どもも無視という方法はこたえる。

私の長男には子どもが一人いるが、その子が言うことをきかなかった場合、子どもを自分の部屋に戻して反省をさせる。例えば、ホームパーティーをしていて、たくさん人がいる時など、興奮して親の言うことをきかなくなることがあるそうだ。そういう時はどんなに楽しくても「そんなことをしては駄目です。皆さんの迷惑です。自分の部屋に戻って反省しなさい」と叱って、一人で反省させるそうだ。

むろん、ただ放って一人にさせているわけではなく、居間から気配や音は聞こえるように注意しておく。子ども部屋で反省させておいて、しばらく時間がたってから、部屋のドアを開けて「ちゃんと反省したかな。みんなの迷惑になることをしては駄目よ」と声をかける。子どもが「ごめんなさい」とすぐ言い、反省の色があればまたホームパーティーに参加させる。子どもが「パパの意地悪、僕悪くないよ」などと言い、反省していなければ、そのまま部屋で反省を続けさせるそうだ。だから、場合によっては結局ホームパーティーに最後まで戻れないこともあるらしい。こうすることによって、親がアルファであり、親の言うことはきちんと守らなくてはいけないことを理解させているのだ。

<犬の写真03>

さて、ここで逆説的に「アルファシンドローム」はなぜ発生するのかを考察してみたい。犬の場合、「アルファシンドローム」の原因は以下の五つと言わ れている。

* 人間のベッドに、犬を上がらせている。
* 食事を人間と同時に(先に)とらせている。または食卓の物を与えてしまう。
* 犬が散歩に連れていけと吠えるので散歩に出る。
* 散歩の時、犬を人間より先に歩かせている。人間が犬にひきずられる。
* 犬の遊びの求めに常に応じている。じゃれっこなどで常に犬を勝たせる。

このようなことがきっかけで犬は自分をリーダーと勘違いするのだ。つまり、犬に飼い主が命令される、犬の方が飼い主より上だ、という事態を絶対に許してはいけないのだ。

人間の子どもの場合も、ほぼ同様の原因で「アルファシンドローム」が発生する。

* 欲しがるものを常に買い与える。
* こづかいを無制限に与える。
* 食べたがるものだけを食べさせる。
* 敬語を使わせない。
* きちんとあいさつさせない。
* 「ありがとうございます」のお礼や「ごめんなさい」の謝罪をさせない。

このようなわがままを許していることで、人間の子どもも自分がリーダーだと勘違いし、「アルファシンドローム」が発生する。そして、やがては非行や家庭内暴力、校内暴力にまで発展する。

最初からしてはいけないことをさせなければ、犬の場合も人間の子どもの場合も「アルファシンドローム」などは発生したりしない。もしも「アルファシンドローム」が発生した場合は、かわいい犬や子どもを無視することで、きちんと治る。

手に負えないほど「アルファシンドローム」の度合いが激しい場合、そして、自分自身に無視する忍耐力や覚悟がない場合は、自分だけで悩まず、犬ならば訓練所や教室に通ってプロの助けを借りた方が良いだろう。人間の子どもならば、生活不良の子どもを治してきた実績のある、プロの教育機関に頼るべきだろう。

<犬の写真04>

池上学院でも今まで何百何千人という生活不良の子どもを治してきた。そして、生活不良の子どもを治すには「絶対にこの子を治してあげるんだ。絶対に正しいことを身につけさせるんだ。絶対にこの子に勉学の楽しさを教えるんだ。だって、この子にはその能力があるんだから。だって、この子には素晴らしい素質があるんだから。今までそれを磨いてこなかっただけなんだ。だから、できる。私ならできる」という強い気持ちが必要だ。

どんなに優秀な先生でも、どんなに立派な教育理論を知っている先生でも、この強い気持ちと強い確信がなければ、生活不良の子どもを治すことはできない。結局は性根の座った先生のみが、子どもを良くすることができるのだ。

私は先生を採用する時に、いつもそういう人材を選んでいる。そして、来春の4月には札幌初の私立通信制高校「池上学院高等学校」を開校し、中退した生徒や基礎学力不振の生徒を数多く育てることになるが、「生徒を必ず素晴らしくする」という強い覚悟を持った先生を見付け続けたい。

もしも、「アルファシンドローム」や生活不良で悩む親御さんや先生方には、強い覚悟を持ってほしい。「絶対にこの子を治してあげるんだ。絶対に正しいことを身につけさせるんだ。絶対にこの子に勉学の楽しさを教えるんだ。だって、この子にはその能力があるんだから。だって、この子には素晴らしい素質があるんだから。今までそれを磨いてこなかっただけなんだ。だから、できる。私ならできる」と心の中で常に念じてほしい。「治せるんだ」という強い覚悟があれば、必ず子どもは良くなるのだ。

【札幌タイムス 2003年6月12日(木) (11日発行) から、許可を得て転載】

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