社会に貢献する素晴らしい人間作りに協力します。|池上公介の教育論|2003年度札幌タイムス掲載(全記事掲載中)

【第14回】
「働く」大切さを、子どもにリアルに教えよう。「生きる」とは?

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前々回の「フリーターは将来性が無い」という話が好評だったので、今回はその話をさらに深めて書き進めたい。

フリーターで暮らしていくとなると、特に技術もなければ、時給の相場は700円くらい。1日8時間働いて5千6百円。月に20日働いて11万2千円。ボーナスなどは無いので、年収は単純に12を掛けて134万4千円。これががフリーターの年収である。

子どもがいれば、3LDKくらいの部屋に住むだろう。札幌の平均的な家賃ならば8万円くらいだろうか。親子3人で暮らせば、公共料金は月2万円はかかるだろう。お父さんとお母さんだけの食費で月5万円くらい。子どもの食費、おむつ代、子ども服などで月2万円ほど。保育園に通わせれば、最低でも4万円かかる。全部ひっくるめれば、月21万円になる。年間で252万円だ。これがぎりぎりかかる金額だ。実際はこれ以上にかかるだろう。

仮に夫婦ともフリーターで共稼ぎをしたとしても、年収134万円×2=年収268万円にしかならない。

夫婦共稼ぎでようやくぎりぎりである。しかし、妊娠数カ月目から奥さんは働くことができなくなり、奥さんの収入はいったん途切れる。そうすると蓄えが無いと生活が破綻する。そもそもフリーターの収入では貯金自体が極めて難しい。貯蓄が期待できないということは、奥さんの収入が途切れてはいけないことを意味するから、フリーターの収入では子どもも作れないことになる。

小学校、中学校、高校ともなれば、さらに学費や塾の費用、習い事の費用が入る。塾や習い事の費用が月2万円とすれば、年間で24万円である。受験時ならば月4万円は塾にかけることも珍しくない。そうすると、年間48万円である。

学校も公立ならばよいが、私立に入ればぐんとかかる。例えば、私立高校ならば年間60万円くらいはかかるはずだ。小学校以上の子どもの家庭ならば、月々の暮らしは部屋代8万円、公共料金2万円、食費5万円、子どもにかかる費用3万円、携帯電話3人で月2万円ほどだろう。全部ひっくるめれば月20万円。年間で240万円となる。

私立高校の生徒が受験対策で塾に通うとすれば、通常かかる240万円+60万円+48万円=348万円となる。私立大学に入学したとすれば、平均的な私大の授業料は年間100万円程度である。そうすると、240万円+100万円=340万円である。

あくまでおおざっぱな話ではあるが、要はフリーターの稼ぎでは到底無理な話である。仮に夫婦ともフリーターで共稼ぎをしたとしても、年収268万円にしかならない。年収268万円では私立高校に通わすことも、私立大学に通わすことも不可能である。

皆さんの子どもは自分が食事をし、食べたいものを食べ、着たい洋服を着て、毎日楽しく生活をし、学校に行き、塾に通うのにどれだけの費用がかかっているかを知っているだろうか。

皆さんは子どもに「どれだけのお金が毎年お前にかかるんだよ」と話したことがあるだろうか。

そんなことみっともないから、子どもに話したくないと思う人もいるかもしれない。しかし、親がどれだけ苦労をし、どれだけ愛情を注いでいるか、一番端的に示すものだと思う。一度、父親の給料がどれだけで、母親がパートで働いている収入がどれだけで、その中でどれだけ多くのお金を子どもに注いでいるのかを、話してあげるといい。

どれだけ多くのものが自分に注がれているかを、子どもは明快に理解できるはずだ。そして、親が欲しい物も買わず、やりたいこともせずに、どれだけ子どものことを思って耐え忍び、お金を貯めているのかを教えてあげるといい。貯金通帳だって見せてあげるといい。毎月これだけのことを子どもにしてあげながら、少しずつ少しずつ、子どもの将来のために貯金をしているかを教えてあげるといい。そして、将来高校に行き、大学に行くとどれだけのお金がかかるかという先々の話も教えてあげるといい。

こうした具体的な話から、子どもたちは生きるということを、現実的に臨場感を持って、リアルに感じることができるのだ。こうした具体的な話から子どもたちは親の深い愛情を感じることができるのだ。

「将来ホストになって、お金をがっぽり儲(もう)けるんだ。カッコいいし、お金だってサラリーマンやるより、めちゃめちゃいっぱい儲けられるんだぜ。勉強なんかホストに関係ないしね。だから、俺は勉強なんかしなくていいんだ」と言う子どもがいた。

「ふーん。でもね、ホストって、ずーっとやれる仕事なの?そうじゃないでしょ。20代の途中くらいまでしか、ホストなんて普通できないんだよ。若さだけで売る仕事だからね。水商売ってみんなそうだよ。若いうちだけなんだよ」

「ええっ、そうなの?でも、若いうちだけでもいっぱい稼げればいいじゃん」

「多少稼いでも、その後お金を増やす方法を知らなければ意味が無いんだよ。数年で稼いだお金なんかあっという間になくなっちゃうよ。水商売やって生き残れるのは、商売上手なごく一部の人だけなんだよ。そういう人は皆計算も強ければ、その他の勉強も他人の見えないところでしっかりやってるんだよ。若いうちに水商売でお金を手にした人は、その後ものすごく苦労するんだよ。水商売でも、今学校で習う勉強はぜーんぶ役に立つんだよ。接客業なんだから、そもそも敬語をつかえないと駄目なんだよ。お客さんに乱暴な言葉つかったら、しかられちゃうんだよ」

最近の若者は目先のことしか考えない。せいぜい1年後か2年後のことしかみていない。5年先、10年先がどうなるのかを考えないから、安易なフリーターや水商売を目指してしまうのだ。

DJになりたいと言う若者がいた。

「先生、俺DJになるから、勉強なんかいらないよ」

「あのね。DJって、HIP(ヒップ)とかHOP(ホップ)とかっていう音楽のレコードとか使うんでしょ?英語の音楽なんでしょ。先生は東京の有名なDJ を知ってるけど、皆英語ができて、英語の歌詞の意味がちゃんと分かって選曲してるんだよ。英語ができなくて、DJの機材の使い方を知ってるだけでは、DJ だなんて笑われるよ」

「はあ。そういやそうかな」

「それに、ああいう業界は礼儀に厳しいんだよ。時間にも厳しいんだよ。仕事の時間に遅れたり、敬語ができてないと、仕事なんてもらえないよ。学校に遅刻してくるようじゃ駄目だよ」

「はあ。ちゃんと明日から遅刻しません」

「DJとはちょっと違うけど、TRF(ティーアールエフ)のSAM(サム)って有名なダンサーは先生でも知ってるけど、知ってるよね?」

「うん、知ってる」

「サムって人はね。ものすごく礼儀正しくて言葉遣いとかも丁寧なんだって。仕事の時間にも正確なんだって。他にもダンスの上手なダンサーはいっぱいいるけど、礼儀とか時間にルーズな人は仕事をもらえないんだよ。一度でも遅刻とかすると、業界から二度と仕事をもらえなくなるんだよ」

「そっかー」

浮ついた夢でも、夢を持つことはいいことだ。浮ついた夢でも、その夢を教師や親に言うことはいいことだ。いきなり全否定をしてはいけないと思う。せっかく持った夢なのだから、ぺしゃんとつぶさず、その夢から現実の厳しさや勉強の大切さ、礼儀の大切さ、時間や約束を守る大切さを教えてあげればいいと思う。 DJになりたいと言えば、そこからでも英語をはじめとした勉強の大切さを教えることができると思う。ホストになりたいと言っても、そこから商売について教えてあげればいい。

そのためには、教師や親も世間を広く知っておく必要があるのだと思う。

何も苦労しなくても、物が手に入る世の中だ。「生きる」ことがリアルに感じられない子どもたちが多い。「働く」ということや「稼ぐ」ということ、「生活をする」ということ、「奥さんや子どもを養う」ということを、なるべくリアルに話してあげ、感じさせることが大切だと思う。

他にも子どもに生活をリアルに感じさせる方法がある。

小遣いを一切あげないことだ。小遣いは子どもにとって、いわば天から降ってくるお金だ。雨水や空気のようにありがたみがまるで無いお金だ。いわば既得権益なのだ。もらって当たり前、もらえなければ不満たらたらになる。小遣いを一切あげなければ、お金の大事さがより肌身にしみるというものだ。そして、料理を作ったり、仕事を手伝ったりして、初めて小遣いがもらえるというのは一つの手だと思う。

昔の日本の家庭は「働かざるもの食うべからず」であった。食事の手伝い、弟妹の世話、家の仕事の手伝いを当然のようにしていた。もしも、それらをサボったり、いいかげんなことをしたら、食事は抜きだ。そして、ひもじい思いをして、「働く」ということが「生きる」ということとイコールであることを覚えていったのだ。

今の日本の家庭では「勉強」さえしていれば、食事も与えられ、小遣いも与えられる。料理や掃除、洗濯など、家事の手伝いもせず、父親の仕事を手伝いもせず、既得権益で食事も与えられ、小遣いも与えられる。これでは子どもたちは、生きるということをリアルに知ることができない。

お父さんお母さんは、子どもに自分たちの仕事を手伝わせることを強くすすめる。そうすることで、「働く」ということが「生きる」ということとイコールであることを、子どもたちにリアルに理解させることができるのだ。

【札幌タイムス2003年7月24日(木)(23日発行)から、許可を得て転載】

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