【第19回】
豊かな経験は宝、もっと活用しよう。オールド・パワー
以前も書いたが、来春の平成16年4月に単位制通信制高校を、私どもは開校する。札幌で唯一の私立通信制高校の「池上学院高等学校」である。定員1800名の大きな高校になる。開校準備のため、最近は積極的に人員を採用している。お世話になっている就職関連の会社の方々に「札幌で、いや、北海道でここまで積極的に人を採用している企業は珍しいですよ」とよく言われている。なにせ、1800名を受け入れる高校を開設するのだから、人手はいくらあっても足りない。
教員は新たにかなりの人数を採用しなくてはならない。今までの企業の時とは異なり、学校会計や学校事務のシステムを構築しなければいけないので、経理のスペシャリストや事務にたけた人を採用する必要もある。これはある程度年配の経験豊かな人が好ましい。むろん、手作業で経理や事務の全てをおこなうわけではなく、パソコンのシステムを導入しなくてはいけないので、SE(システムエンジニア・パソコンのシステム担当者の意)も採用しなくてはいけない。
親御さんや生徒さんから電話で問い合わせがあったとき、明るく親切に分かりやすく通信制高校について説明できる電話受付も採用しなくてはいけない。これは若い人でも経験豊かな人でも明るく親切ならば良い。
中学校や高校の校長先生や教頭先生、進路指導の先生にたくさんお会いして、池上学院高等学校の説明をしなくてはいけないので、学校訪問することが非常に多い。むろん、理事長である私や今いる池上学院の先生が学校を訪問するが、ある種の営業活動なので、営業のスペシャリストも採用しなくてはいけない。校長先生や教頭先生にも会うのだから、若い人よりもむしろある程度年配の経験豊かな人の方が好ましい。
かなりの人数を採用した。若い人も多いが年配の方も相当採用した。50歳代も採用したし、60歳代の方も採用した。就職関連の会社から「池上さんのところは年配の方でもいいんですか。珍しいですね」と言われることが多い。「年配の方でもいいんじゃなくて、年配の方がいいんです」といつも訂正している。そして、その後こうつなげる。「経験豊かな方は我々にとっては宝です。我々みたいに少数精鋭でやろうという組織にとっては、年配の方が即戦力でありがたいんです」。むろん、職種によっては若い方がいいこともあるし、同じ職種内の年齢分布で年配の方が多過ぎるのも良くないので、バランスをとって若い人も採用はしている。
しかし、ここで私が言いたいのは、日本企業はこれからもっと「オールド・パワー(年配の人の力)」を活用すべきだということだ。経験豊かな年配の方々を利用しないのはもったいない。
募集条件で年齢制限があることがとても多い。しかし、職種によっては、年齢など関係ない仕事も多いはずだ。60歳で定年で、年をとった人はさっさと退職させて、若い人を採用したがる企業が多いが、本当にそれが正しいのだろうか。私自身63歳だが、若い人よりもはるかに元気に仕事をしている。ここ数年風邪ひとつひいたことも無ければ、寝込んだことも無い。逆に若い人の方が、やれ風邪だ、おなかが痛い、病気になった、と休む人が多い。
むろん、体にガタがきている年配の人もいるが、総じて最近の年配の人は皆元気だ。頭も体もしっかりしている。何よりも、礼儀からビジネスマナーまで。若い人より当然しっかりと身についているし、知識も経験も若い人より上だ。
オールド・パワーをほど良く利用することは、企業にとっても益になることが多いはずだ。私は企業や学校を定年退職した人を積極的に採用しようとしている。ぜひ、私どもの池上学院のホームページに採用情報が載っているので、のぞいてみてほしい。
話は少し飛ぶが、皆さんは「アウトプレースメント会社」をご存知だろうか。日本語にすると「就職再支援会社」となる。ある企業で早期退職制度など、ある程度の人数がまとめてやめる場合、その企業が退職者たちの次の就職先を決めるまで面倒を見るのだ。自社内では就職を支援するノウハウが無いので、プロの会社に委託する。それがアウトプレースメント=就職再支援会社なのだ。もともとは人材の流動化の激しい欧米で生まれた仕組みだ。最近ではこのアウトプレースメント会社に依頼する企業が増えているらしい。早期退職する人たちにとっても、退職金だけ渡されて「はい、さようなら」で終わるより、次の就職先まで支援してくれる方がはるかにありがたいようだ。
具体的にアウトプレースメント会社がどのようなことをしてくれるかと言うと、まずはその人の知識や技術などをチェックした後、正しい履歴書の書き方から職務経歴書の書き方、効果的な面接の仕方まで教えてくれる。さらには、適する就職先を探してくれて、面接の予定まで設定してくれるのだ。まさに、至れり尽くせりである。
アウトプレースメント会社は、再就職する人たちからは一切報酬をもらわない。つまり、無料で就職の支援をし、就職先を探してくれるのだ。就職が決まっても、報酬はもらわない。おまけに就職先からも一切報酬はもらわない。
で、どこからお金をいただいているかと言うと、早期退職者を出す会社側からお金をもらっているのだ。通常の人材紹介会社や人材派遣会社とは違い、採用する側も紹介料を取られない点で、大変ありがたい。また、ハローワークとは異なり、募集側の条件をもとにある程度セレクト(選択)をしてくれる。粒のそろった人材、条件にかなった人材のみを素早く紹介してくれるので、無駄が無い。条件と合わないトンチンカンな履歴書を大量に見るのは、採用活動をしている側にとって辛いものだ。
私も最近、アウトプレースメント会社から何人か紹介してもらって採用したが、実に優秀で良い人材である。むろん、50歳台前後の方で経験・知識ともに私は満足している。我々のように「ある程度の年配で経験豊富な人材」を求めている場合は、アウトプレースメント会社はもってこいの仕組みだ。
しかし、送られてくる履歴書を見て、最近の家庭や学校の教育はどうなってるんだろう、と思うことが多い。例えば、履歴書の封筒を見ただけで「こりゃ駄目だ」ということがある。封筒の字が乱雑なのは論外だが、宛名書きが真ん中に来ておらず、左の端の方まで宛名が飛び出ていることがままあるのだ。若い人にも多いが、結構な年配の人にも多い。
手紙の書き方をきちんと習っていないのだろうか。家庭で何を教えてきたのだろうか。学校の国語の時間にいったい何を教えてきたのだろうか。どんな人でも少なくとも毎年年賀状くらい書いているはずである。手紙や封書の宛名書きが真ん中だという常識が、すでに日本では崩れているということだろうか。こういう社会人として大切な常識をきちんと教える教育をしていきたいと私は思う。
私どもの採用を担当している者が先日「院長先生、最近ですね、履歴書を送り返してほしいと言う人が増えていて、困ってるんですよ」と言ってきた。「なんで履歴書を送り返してほしいなんて言うのだろうね」「どうも不採用になった履歴書を何度も使い回すみたいなんですよ。見てください。ちょうど、ここに履歴書がいくつかありますから。この履歴書なんて日付が修正液で消されて、その上から新しい日付を書き足してるんですよ。こっちの2枚ものの履歴書なんて、ホチキスの跡が何カ所もあります。何回も使い回ししたんでしょうね。みっともないじゃないですか。いいところを見せなきゃならない履歴書なのに、これじゃあ意味無いですよ。履歴書を使い回さないなんて常識なんですけどね」
封書の宛名書きや履歴書の書き方もちゃんと知らない者が多いのだから、そこら辺の正しいやり方を教えてくれるアウトプレースメント会社が重宝がられるのも理解できる。
就職難の時代である。親御さんは皆、わが子の就職を心配している。それならば、親御さんはまず手紙の正しい書き方から子どもに教えるべきだろう。親御さん自身が正しい手紙の書き方が分からなければ本の1冊でも買ってきて、子供と一緒に手紙を実際に書いてみるといい。少し離れた所にいるおじいちゃんやおばあちゃんに、手紙の書き方の本を片手に子どもと一緒に手紙を書いて、出してみるといい。おじいちゃんやおばあちゃんは喜ぶし、子どもも正しい手紙の書き方が身について一石二鳥だ。時期的には「暑中見舞い」か「残暑見舞い」といったところだろうか。なんなら、お世話になった学校の先生や保育園の先生、子どもの友達、宛先は誰でもいい。とにかく手紙を書いてみることだ。
そして、おじいちゃんやおばあちゃんは、孫にどんどん手紙を送ってあげることだ。手紙をもらってうれしくない人はいない。それも出来れば正しい書き方の手紙を送って欲しい。それを手本にして、お孫さんは正しい手紙の書き方を身につけることだろう。
ここにもオールド・パワーが生きるのだ。ぜひとも、孫の成長を褒め、一生懸命スポーツをしていることを褒め、勉学にいそしんでいることを褒める内容の手紙をお孫さんに書いて欲しい。どんな小さいことでもいい。褒める内容の手紙は大事にされるものだし、ずーっと取っておいて励みにするものだ。
むろん、孫を一生懸命育てている親御さんを褒める手紙もおじいちゃん・おばあちゃんは書いてあげて欲しい。どんな小さいことでもいい。「孫が健康で育っていることは親がきちんとしていることだ。立派だ」という内容で十分だ。それだけでも日ごろの疎遠さがぐっと縮まるはずだ。
私自身手紙を書く機会が近年減っている気がする。手紙は電話やEメールよりも、もっと気持ちを伝えることが出来る手段だ。ぜひとも活用したいものだ。そうだ。これからさっそく手紙を書いて、私の「オールド・パワー」を誰かに伝えよう。
【札幌タイムス2003年8月28日(木)(27日発行)から、許可を得て転載】





