【第24回】
母熊と子熊に教えられる、情けない人間。親離れ子離れ
いじめや不登校、中退、学力不振といった問題に悩んでいる子どもたちが年々増えている。「今の学校が合わないの?じゃあ、転校すればいいじゃない」と思う方も多いだろうが、実は今の日本の学校制度では、なかなか容易に転校などができないのだ。学校をやめた後に、また別の学校に入り直すのも非常に難しい。結局問題を抱えた子どもは学校をやめて、その後フリーターになったり、何も前向きのことができず家に引きこもってしまったり、ふらふらと遊び歩いて非行の道に曲がっていってしまう子どもも少なくない。
容易に転校ができない日本の学校制度が、ひとつの要因なのだ。
来春4月に開校する池上学院高等学校は、こうした子どもたちを受け入れるべく、現在準備を進めている。いじめや不登校、中退、学力不振といった問題に悩んでいる子どもを1人でも多く受け入れて、救っていきたいと思う。
おかげさまで、まだ学校説明会の本格的な告知をしていないが、関心を持っていただいている方が多く、「いつ学校説明会を開くのか」という問い合わせが多数来ており、対応に大忙しという状態である。
学校説明会の日程もようやく決定した。
10月と11月に、池上学院高等学校の学校説明会を、札幌コンベンションセンターで実施する。10月29日(水曜日)の13時30分から15時の説明会は、中学校と高校の先生を対象として実施する。11月2日(日曜日)の13時30分から15時の説明会は、生徒さんと保護者の方、そして学習塾を対象に実施する。関心のある方、不登校や中退、学力不振で悩んでいる子どもをお持ちの方は、11月2日の説明会に参加願いたい。池上学院高等学校の個別指導を中心とした独自の学習方法や、柔軟に転編入に対応できる入学システムについて、具体的に分かりやすく説明をしたいと思っている。
学校説明会の司会は最初、プロの司会者に頼もうかと考えたが、職員にさせることにした。日頃大勢の生徒さんを前に講義をしている者たちだが、大勢の大人を前に話をするのはまた別の緊張があるものだ。重要な説明会なだけに、私自ら司会をしようかとも考えたが、それでは職員が育たないと思い、任せることにした。職員の良い成長の機会になると思う。
私は色々な学校に呼ばれたり、様々な業種の企業に呼ばれて講演をする機会が多く、年間で100本近く講演をしている。何十人、何百人という人を前にしても別にあがることもなく、どんな話でもできるのはありがたいことだ。しかし、普通はそんなに多くの人の前で話す機会は無いものだ。職員にとっては実に良い成長の機会だ。私はもう手を貸さず、ある意味では彼らを突き放すつもりだ。
今回、学校説明の準備を職員と共にしていて思いついたことは「親離れ」「子離れ」ということだ。
動物は皆子どもがある程度の大きさになると、巣から追い出し、親離れをさせようとする。以前テレビで熊の親子の親離れを見た。
まずは母熊が巣の中で子熊を産むシーンからその番組は始まった。小さい子熊は実に可愛らしい。母熊は愛情を持って子熊を育てる。子熊は母熊の顔をペロペロとなめて「お母さん、ボクお母さんのこと大好きだよ」と表現している。どこへ行くにも母熊と子熊は一緒である。川へ行くのも、木の実を探しに行くのも一緒である。川へ行けば、母熊は子熊に魚の獲り方を実際にやって見せる。子熊は母熊の真似をして水しぶきを上げ、楽しそうに魚を獲る練習をしている。木の実を採りに行けば「ここが毎年美味しい木の実のなるところなのよ」と言ってるかのように、母熊は子熊に頭をすり寄せて、採ってあげた木の実を食べさせている。
こんなほほえましく仲の良い熊の母子も、子熊が徐々に大きくなり、ついに母熊の大きさに近づくと、ある日親離れが行われるのだ。「ウォー!グゥオーッ!ガァーッ!」母熊は突然、子熊に恐ろしい声でほえ立てる。牙をむき、ものすごい形相で、大きな体を立ち上げ、腕を振り上げ、爪を立て、全身で子熊を脅す。子熊を震え上がらせて、巣から追い出そうとするのだ。
子熊は突然吠え出した母熊をまるで理解できない。ただただ、うろたえるのみだ。「お母さん、どうして怒り出したの?お母さん、ボクだよ。いつものように可愛がってよ!」と子熊はクークーという声を出す。しかし、母熊はますます恐ろしい声でほえ立てる。あまりの勢いに子熊は少しずつ後ずさりし、遠巻きに巣の周りをウロウロする。それでも母熊の脅しは止まらない。とうとう子熊は全てを理解したかのように、のっそりのっそりと重い足取りで親熊から離れていった。
この光景をテレビで見て、私は感動した。
「ああ、そうだ。動物は皆、親が必死になって子どもを親離れさせて、1人前にさせるのだ。親から離れることによって、動物は初めて1人前になっていくのだ。自分で巣を作り、自分で餌をとり、自分の力だけで生きていって1人前なのだ」
私の子どもも皆1度は東京に働きに出した。子どもたち自身の稼ぎで部屋を借り、食事を作り、服を買い、親離れをして、1人前になったのだ。
3人いる子どもが皆1度は東京に長々と働きに出るのは、札幌では珍しいかもしれない。しかし、私はあえて東京の荒波の中で働いて、1人で生きていくことを子どもにして欲しかったのだ。
しかし、世の中には親離れできていない子どもがなんと多いことだろうか。20歳を超えてもバイトもせずに、親と一緒に暮らし、親に食べさせてもらい、いい大人の年齢のくせに親から小遣い銭までもらっている。このような若者をパラサイト族だとかパラサイト・シングルなどと呼ぶらしい。「パラサイト」とは「寄生虫」のことである。親にいつまでもしがみつき、親のすねをかじり続けているからだ。
親と同居しながら働くのも無論悪いわけではない。しかし、稼ぎの中から多少の生活費を親に納めるにしても、1人暮らしとは厳しさがまるで異なる。親が食事を作ってくれ、洗濯も親がしてくれる。なにかと親がやってくれるので、どうしても甘さが出る。本当の意味の親離れがなかなかできない。
熊は子熊が大きくなってから、母熊とひとつの巣穴に住むことは絶対に無いのだ。「母さん、今日は木の実を採ってきたよ。ボクの代わりに母さん、鮭を2、3匹多めに獲ってきてよ。なんか今日疲れちゃって…」とは、熊は絶対にならない。
母熊がいれば、いつまでも本気で魚を捕ることも、何もかもついつい母熊に頼ることになるだろう。完全な自立ができないままになってしまう。
今、日本では20歳以上の引きこもりが、60万人とも100万人とも言われている。
その根本的な要因のひとつに親離れ、子離れをきちんとする機会を持てなかったことがあげられるのではないだろうか。いくつになっても親が面倒を見ている例がほとんどである。これは日本が豊かだからできることである。
先日も本州から、ある方の紹介で中年の夫婦が私を訪れた。父親は中都市で大きな工場を経営していて、かなり裕福な家族だ。25歳になる1人息子が札幌で引きこもっているので相談に見えた。大学受験で札幌の大学を受けたが、失敗して札幌の予備校に入った。しかし彼は予備校に通わず、マンションでだらだら生活を始めた。母親は父親にそのことを内緒にして、毎年受験に失敗して浪人を続けていることにして、送金を続けていたのだ。よくも、5年も6年もそんな状態にしていたものだ。彼はあまり外にも出ず、自分で好きなことだけして、部屋も散らかし放題で足の踏み場もないような状態にしていた。
マンションの大家が、部屋から悪臭がにおうとか不潔だとか、隣人からの苦情があまりにもひどいので、思い余って実家に電話をした。受けたのが父親だった。父親は全くそんなことになっているとは思わず、てっきり息子は勉強していると思い込んでいたので、驚いて母親に問いただした。そこで初めて、母親がずっと隠していたことが分かり、2人で札幌に飛んで来たのだ。色々と話を聞いて、私はこう言った。「とにかく本人を連れて来てください。それから送金はもう止めるべきです。必ず自分で生活して行けますよ」
次の日、両親が息子を連れて来た。髪はボウボウ、ひげもボウボウ、そしてかなり太っていた。両親には遠慮してもらい、私と本人と2人で話してみた。やはり、本人は親離れをしたくなっていた。しかし、毎月毎月かなりの額のお金が送られてくる。何もしなくても生活ができる。考えるのも面倒だ。そんな感じで楽な毎日が送れる引きこもりを続けていた。
「1人で、やって行けるネ」と私は念を押した。「ええ、大丈夫です」と答えが返ってきた。
両親の待っているところに行って、これからは彼には一切手を貸さないむねを話した。父親はすぐ納得したが、母親は心配して「大丈夫でしょうか。送金しなければどうやって食べて行くんですか」と聞く。「お母さん、彼はあんなに太ってるんですから、3日や4日食べなくても大丈夫です。お腹が本当にすいて、どうにもならなくなったら、必ず彼は何か行動をし出します。いいですか。もう絶対にお金を送ったら駄目ですよ。心配はいりません!」と私は強く言った。本人には何か相談したいことがあったら、私に電話してくるなり、会いにおいでと言っておいた。
その後、あの母親が、父親に内緒で送金をしてないか心配だ。そんなことであれば、彼はいつまでも自立できないからだ。今日も日本のあちこちで子離れできない親、親離れできない子が増え続けている。
【札幌タイムス2003年10月2日(木)(1日発行)から、許可を得て転載】





