社会に貢献する素晴らしい人間作りに協力します。|池上公介の教育論|2003年度札幌タイムス掲載(全記事掲載中)

【第26回】
学力不振、不登校から…奇跡の大逆転。継続は力なり

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K君のお父さんが久しぶりに訪ねてきた。長年勤めていた会社を定年退職することで、わざわざあいさつに来たのだった。色々な話をしているうちに、息子さんの話になった。

「池上学院でお世話になったKも、おかげさまで25歳になりました。現在、道南の都市でエンジニアとしてしっかり勤めています」

「そうですか。あれは確か10年も前になりますね」

あの時、お父さんが1人で私に面談を求めてきた。2月だったと記憶している。

「実は中学2年の息子のことなんですが…。家内が学校から呼ばれましてね。『お宅の息子さんはあまりにも勉強ができないので、高校進学はあきらめてください』と担任から言われたんです」

「えっ、学校でそんなこと言われたんですか」

「そうなんです。確かにうちの息子は学力が低くて…。担任の先生は『学校で教えても全然だめですから、塾に行こうと家庭教師をつけようと無駄です。高校進学はあきらめてください。入る学校がないんですよ』って言われたんです。そう言われても、親としては、なんとかできないものかと思いまして。池上先生のところでなら、何とかならないものでしょうか。あきらめきれないものですから、他からも先生の話を聞いていたので、無理だとは思いますが、相談に来ました」

「もちろん大丈夫ですよ。それで息子さんは何ランクなんですか」

「いやー、通信簿は全部1と2だけで、Kランクなんです」

「お父さん、大丈夫ですよ。今、中学2年でしょう。あと1年あります。完全に変身できます」

私は自信を持って答えた。それまでも、学力不振と言われたKランクはおろか、LランクもMランクの子さえも、変身させてきた経験が豊富にあったからだ。その子の実力まで戻って池上方式の個別指導をすることによって、どんな子でもついて来さえすれば、必ず素晴らしい伸びを示すことを、たくさんの子たちが教えてくれていた。

「とにかく、本人を連れて来てください。K君に早く会いたいですね」

次の日、お母さんとK君がやってきた。すっかり自信をなくして、力なく、何とも頼りのない感じの少年だった。学ぶ喜びを知らぬまま、学力不振というレッテルを貼られて、しょげ返ってしまっていた。しかし、私には彼からとても真面目で誠実な感じが伝わってきた。

「K君、大丈夫よ。全部一からやり直しをしようよ。君の分かるところから始めてみよう」

私は彼の1番苦手な英語を担当することにした。最初の授業は、今でも覚えている。彼は恐る恐る中学1年生の英語の教科書の1ページ目を開いた。まず1ページの2、3行をしようとしたが、彼には無理だった。

「よし、1行ずつやってみよう」

それで駄目なら、単語1つに変えてみようと思ったが、彼は最初の1行を30分くらいかけて何とかものにできるようになった。何10回書いて練習したことだろう。彼は必死になって、1行ずつ真剣に練習した。1日目1ページを2時間ほどかけて、完全にものにしたのだ。

「素晴らしいネ。よく頑張ったよ」

私は拍手をした。彼は初めてニコッと笑った。白い歯がキラリと輝いた。とにかく認めて励ましてやることが必要なのだ。各教科の先生たちも一生懸命やってくれた。1カ月、2カ月、そして3カ月たった頃、英語の勉強は1ページのペースで練習できるようになってきた。1年生の教科書が終了し、2年生の教科書に入りかける頃、彼は中学3年生になった。それからも彼の努力は続けられた。中学2年生の教科書が終了する頃になると、勉強の基礎も安定したものになり、学校での勉強にもついて行けるようになってきた。

「どう、K君。学校の勉強、少しは分かるようになってきたかい」

「はい、分かります」

どちらかというと、口が重く、無口だった彼から、言葉の反応が返ってくるようになってきた。また、お父さんが私のところにやってきた。

「うちのKがだんだん成績が上がり出してきたので、中学の担任から『どうしたんですか』って言われたんです。とても不思議だったのでしょうね。私も家内も担任には頭に来てたんで『ええ、ちょっと』とだけ言って、池上学院に通っていることは言わなかったんです。本当にありがとうございます。まさかこんな風に成績が上がり出すとは、とても考えられませんでした」

「いやいや、お父さん、こんなものではありませんよ。K君はとても真面目で、こつこつやっていくタイプですから、この状態を続けていくと、どのくらい伸びるか分かりませんよ。私はとても楽しみにしているんです」

高校進学は無理で、あきらめてほしいと言われたK君は、その後もどんどん成績が伸びていった。理科、数学は満点を取り、クラスのトップに躍り出た。そして見事に高校進学を果たした。それからが素晴らしかった。高校入学後も同じペースで池上学院での勉強を継続した。高校に入ってからの通信簿が池上学院の個人成績記録表に残っている。ほとんどが5か4である。中学の時、1と2だけだったのが高校に入って5と4になってしまったのだ。すべてに自信が持てるようになり、学ぶことへの姿勢が積極的になっていった。高校卒業時の成績は、断然学校トップである。通信簿は高3になると10段階評価になり、10と9が並んでいた。工業系大学に見事合格した。

池上学院では毎回の個別指導の内容、指導記録、評価が残っている。最後の授業は福真先生の数学だった。福真先生はこんな風に記録を残している。

「祝、合格。思えば4年前、数学の評定2の男の子がいかにも自信なさそうに現れたのが出会いで、高校に入ったことすら奇跡と言われ、そんなこんなで努力を重ねながら、なんと任意関数の微分までも手中におさめたわけです。彼はまさにサクセスストーリーを実現させたわけで、4年間面倒を見ることができたのは大きな喜びであります。本当におめでとう。なんだか不安そうにそわそわしています。まあ仕方がないよね。合格したのだから。これからの人生に幸あれ」

また、記録板の担当事務員は「残り2回でさよならなんて、うれしい分、さみしいですね。お疲れさまでした」と残している。もちろん、両親をはじめとして陰でのいろんな支援によって、そこまできたのだけれど、本人の継続力は大変なものだったと思う。「平凡なことをし続ける非凡な努力」をやってのけた。これぞ「継続は力なり」だったろう。

子どもたちの大変身には、私はいつも驚かされる。今年も1人の少年が大変身をとげた。

T君は中学1年の夏休み頃から不登校が始まった。それから休み続け、中学3年生になってお母さんが高校進学のこともあり、何度か相談に見えた。その後、T君はお母さんと2人で面接に来た。本人は下を向いたままで、私と母親の話を聞いているだけのようだった。後で本人に聞いたところ、その頃は、人前で話すことに抵抗があり、私や母親の言葉に相づちを打つのが精一杯だったとのことだった。でもその時、私の話で将来の道が見えたような気がして、とてもスッキリしたことを覚えていた。

最初は個別指導で、私の英語の授業を中学1年からやり直した。本来、真面目過ぎるくらいの子だったので、一生懸命やろうとする。それで、すぐ疲れるようだったので週に1、2回、2時間程度で自宅に帰した。少しずつ慣らして行き、池上学院のサポート校部門で受け入れることにした。高1の1年間はまだ暗い感じて、人と会話もできず、学院に来るのがやっとだった。彼は中学時代の遅れを取り戻したいという気持ちで必死だったようだ。中学と高校の両方の勉強をするということは容易なことではないが、彼は頑張った。

高2になった時、1人明るい新入生が入ってきて、彼に話しかけるようになった。あっという間に友人になり、彼は急に明るくなっていった。何か取り付いていたものがポロリと落ちたかのように、積極的な少年へと変わっていった。人前でも堂々と自分の意見も言うようになり、いろんな発表も進んでやるようになっていった。

これが彼の本来の姿だったのだろう。そうなると、彼は不登校の頃のことを話してくれるようになった。とても繊細な少年で、体育などが苦手で、小学校の頃から体育がある日など、時間割を見ては重苦しさで押しつぶされそうになり、それに加えて友達とうまくコミュニケーションを取ることができないという孤独感が、いつの間にか硬い殻で彼自身を隙間なく包み込んでいたのだった。

学校へは行かなくても、常に彼は「行かなくてはいけない」と自分を追い込み、家庭にいても親の目を気にしたり、学校が気になり、勉強が遅れることへの不安に苦しみ、家庭も心休まる場所ではなかったと言う。部屋に閉じこもっていた毎日はどんなに辛かったことだろう。学校に行っていないことが負い目となり、社会に自分をさらしたくないという気持ちが強くなり、外の空気を吸うことさえ拒んで、自ら閉ざした小さな空間で毎日、深い挫折感や劣等感を味わっていた。

その彼が池上学院との出会いで、徐々に重い扉を開いていった。高3になった時にはもう別人になっていた。持ち前の勉強に対する向学心が燃えていった。将来は学問の世界で身を立てたいという夢が膨らみ、大学受験に向かっていった。そして今年の春、彼は慶応大学に見事合格したのだ。まさに奇跡の大逆転だった。小学校の頃から不登校気味、中学3年間はほとんど不登校で勉強といった勉強もできなかった彼が、池上学院との出会いで本来の姿を取り戻し、開花したことは私にとっても口に表現できない喜びだった。

彼がお母さんと大学合格の知らせを私に言いに来た時、心なしか照れている彼の顔から、やり遂げた満足感と自信がひしひしと伝わってきた。

【札幌タイムス2003年10月16日(木)(15日発行)から、許可を得て転載】

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