社会に貢献する素晴らしい人間作りに協力します。|池上公介の教育論|2003年度札幌タイムス掲載(全記事掲載中)

【第34回】
切れていた赤い糸。結婚しない、結婚していても子どもがいない

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私と同年輩の60代の知人に会うと、このところ孫の話題が実に多い。孫の話といっても、昔なら孫の自慢話とか、孫がどんなに可愛いかなどと写真まで取り出して目を細めて話したものだが、最近は全く違うのだ。「自分は孫を抱くことはあきらめた」とか「孫とは縁がないみたいだ」などという話なのである。

子どもたちが結婚適齢期をとっくに過ぎているのに、結婚をしていないのだ。また、結婚はしていても、子どもを持とうとしないとか、欲しいのに子どもができないとか、そういった話がなんと多いことだろう。

先日も市内のホテルで開かれたある会合で久し振りに会った60代の知人数名と、その会合の後、ロビーにある喫茶でお茶を飲んだ。会話が進んでいくうちに、孫の話になった。普通ならば当然、孫に囲まれているはずの年齢である。

その中の1人が言った。

「うちは息子2人と娘1人なんだけどね、誰も結婚の意思なしなんだよ。女房も私も、その話は禁句にしたよ。息子2人とも東京にいるんだけど、長男は40歳を越えちゃったし、次男が38歳で、全然女っ気もないんだよな。娘はうちにいるんだよ。36歳で、今までに何回かいい話が来たんだけれど、本人はその気は全然ありませんと、けんもほろろ。今、仕事が充実しているからと言うんだけどさ、本当にそうなのかな。自分の娘ながら、何考えているんだかさっぱり分からないんだから。全く情けなくなっちゃうよ」

市内でかなりの商店を経営している友人も話し出した。

「うちは息子が2人でさ、37歳の長男は神奈川で会社員やってるんだけど、まだ独身なんだよ。下の息子は35歳で、27歳のとき結婚したんだけれど、子どもがなかなかできない。すごく欲しがってるんだけど、8年もできないから、もうあきらめたみたいだな。2人で病院にも行ったりしていたみたいだけどね。これだけは授かりものだから。どうもうちも孫には縁がないんじゃないかなあ」

もう1人も言い始めた。

「さっきから聞いていたら、変に安心したよ。うちも同じなんだよ。うちの3人の子どもたちも、いつの間にか全員が30歳を越しちゃって。長男は四国で医者をやっているんだけど、もうすぐ40歳になるのに、まだ1人身なんだよ。奥手なのか、恋愛経験もないんじゃないかな。俺の子みたいじゃないんだよな。真ん中が娘で、もう37歳さ。我々と一緒に住んでいるから、今で言うパラサイト・シングルっていうやつかな。結構いい給料もらっているもんだから、しょっちゅう海外旅行に行ってるよ。見合いもさせたんだけど、片っ端から断るしさ。もうこれ以上はさせられないよ。本人にその意思があるなら別だけど。下の息子は、 35歳になるのかな。つきあっている女性がいて、これはなんとかなるかなと期待していたら、いつの間にか別れたようなんだよ。いやー、もうまいったな。俺も孫の顔は見れないのかなあ」

いつの間にか何とも寂しい会話になってしまった。

60代のおじさんたちと同じ話題が、おばさんたちの間でも交わされていた。

ある日曜日のことだ。私がタクシーから降りて、ホテルのロビーに入ったところで、話好きの知り合いの婦人から呼び止められた。「あら、お久し振り。このホテルで何かの会合なの?」と聞かれて、私がこれから結婚式に招かれて行くところだと言うと「いくつのお嫁さん?」と彼女が聞くのだ。結婚式に出ると言って、すぐ花嫁の年齢を聞かれたことなど今までになかったので、面白い質問をするなあと思いながら「えーと、はっきりと分かりませんが、確かうちの下の息子と同じ位の年だったと思うので、30歳位だと思いますよ」と答えた。

すると彼女は「あらー、よかったわねー。親御さんはどんなに安心することか。実はね今、私の女学校時代の友人との集まりがこのホテルであったの。私たちももう65歳でしょう。だから、定期的に集まって、おしいものを食べながら心ゆくまでおしゃべりするの。今日もね、昔の6人のグループでよもやま話よ。女の長話だから、ホテルのボーイさんもきっと、うんざりしていたんじゃない?あら、ごめんなさい。あなた私と話していて大丈夫?」。私はたまたま時間より早目に着いていたので「大丈夫」と答えた。

「いやね、さっき、お嫁さんの年を聞いたりしたんで変に思ったでしょう。実はね、今日は友人たちと昔話や世間話に花を咲かせているうちに、どうもすっきりしない話になってしまったの。孫の話になったのよ。そうしたら、何と今日集まった6人のうちで孫がいる人は、たったの1人だけだったの。それもその人は孫はいるけど1人。6人で皆の子どもの数を合わせてみたの。何人だったと思う?」

「15人位ですか?」と、私は聞いた。「19人だったのよ。私たち6人が結婚して12人になって、19人の子たちに増えたのよ。7人増えた訳ね。ところが今、19人の子どもたちから孫が1人よ。これ一体どうなってるのかしら。私にも子ども3人いるけど、長男はバツイチで今35歳。別れた後はずっと1人だし、長女は34歳で、昨年ようやく結婚でしょう。それに子どもは絶対いらないって言うし、次女は東京でOLしてるんだけれど、30歳を越しても結婚の意思は全くなし。その上、来年は海外に留学して勉強をし直したいなんて言ってるしさ。これじゃ結婚なんて考えられないし、独身を通すつもりでいるみたい。この間、私が上京した時、娘に会ったら、『お母さん、私と将来一緒に住もうか?』なんて言うから、『私はごめんだわ』と言ってやったの。私も孫には縁がないみたい。期待したら失望するから、もう孫の夢は見ないことにするわ。他の人たちも皆似たり寄ったりで、娘や息子がいるのに30歳を過ぎても結婚の意思がないみたい。晩婚の傾向がますます強くなってるけど、出産するには、やはり母体が若いに越したことないと思うけどね。高齢出産なんて大変だしね」

「皆でそんな話をしていたら、1人だけ孫のいる人がね、なんか肩身の狭い思いをして、何も話さないで静かにしているのよ。私たちに気を遣っていたのかしら。そんな時、1人が言った話に、皆で大笑いしたの。こんなこと言い出したのよ、彼女は。『ちょっと聞いてよ。うちの娘ったら、本当にあきれるの。もうとっくに30歳も過ぎているのに、いつも結婚なんて気にもしてない感じで、のんべんだらりとしている時が多いから、私も時々頭にきて強い口調で、もう30 歳もとっくに過ぎているのにあんたどうするの、なんて言ってしまうの。するとすごい剣幕で娘は、お母さんには関係ないでしょう、私の好きなようにしておいてよ、とか口を返してくるのよ。結局口げんかになってしまうでしょう。だから私も反省して、娘を励ましてあげようと、私にしては珍しくこの間、穏やかにしみじみと娘に言ってみたの。今までずっと縁がなかったけれど、あんたもきっとどこかにいるどなたかと赤い糸で結ばれているんだよ。あんたと赤い糸でしっかり結ばれている人が、この地球上に必ずいるとお母さんは思うよ。そう固く信じているよって、私にしては本当に珍しく真面目に、そりゃしみじみと言ったの。そしたら、何て言ったと思う?うちの娘。親の気持ちも知らないで、お母さん、私の赤い糸は切れてしまっているんじゃない?悪いけど最初から私の糸は切れていたのよって、しゃあしゃあと言ったかと思うとテレビのスイッチを入れたのよ』。その話を聞いて皆で大笑い。でも本当は笑っていることじゃないのよね。あら、ごめんなさい。すっかり長く引き止めてしまって。30歳のお嫁さんの結婚式に遅れたら大変。でもよかったわね。彼女の親御さんはどんなに安心することか」

彼女は私にいとまをして、ロビーから出て行った。

式場に向かいながら、私は考えた。切れている赤い糸が増えているのなら、何とかその切れている赤い糸を捜して結んであげなくては、と。確かに深刻なほど、我が国の少子化はどんどん進んでいる。これは日本という国に大きな影響を与えつつある。少子化が原因で、現在すでに、また将来に、色んな問題が出てきている。

それでは、どうやって少子化を防いでいけるだろうか。まず、第1に結婚をしたがらない若者の増加だ。その理由はいくつか考えられる。男性、女性とも結婚によって、自分が好きなように生きていけなくなるのがいやだ。相手に合わせていくなんて、もっての他だと考える傾向が強くなっている。女性の収入がある程度保証されるようになってきた昨今、女性の社会進出は目覚ましいものがある。しかし、いざ結婚となったり、妊娠となると、女性には大変なハンディがある。1度退職し、その上で再就職となると、なかなか大変な壁がある。それをスムーズに受け入れるほど、社会はまだまだ、その点では熟してはいない。そのことを考える時、結婚に二の足を踏まざるを得ない女性も多いのではないか。仕事と子育てを両立させる社会整備を一刻も早く充実させる必要がある。そして第2に、結婚しても子どもがなかなか授からない人たちの増加だろう。環境ホルモンの影響や食環境の変化、その他の要因が複合しているのだろう。

成人男性は精子の数が3億と言われていたのに、今は7、8千ということだ。同様のことが女性の体にも起きているのではないか。

若い人たちが結婚したがる、結婚しやすい環境、そして、子どもができ易い環境にすることを、私たちは今、真剣に考える時に来ているようだ。

【札幌タイムス2003年12月10日(木)(9日発行)から、許可を得て転載】

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